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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)57号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人梁川昌一辯護人渡辺一男上告趣意第一點について

記録を檢討するに、昭和二十二年十一月十日の原審第一回公判期日については、辯護人に對しては、適法に召喚手續がとられたことは之を證明するに足る別段の書面があるが被告人梁川昌一に對し右期日の召喚手續がとられたことについては之に関する別段の書面の存しないことは所論のとおりである。しかし、同被告人が當時大阪拘置所に勾留中であったこと及びそれにもかゝわらず右第一回公判期日に出頭して辯論をしたことは記録上疑いのないところであって、正規の召喚手續もとられなかったのに勝手に拘置所から裁判所に出頭したものとは到底考えられないから、右の両事実に徴し、原審は本件被告事件を受理した後刑事訴訟法第八十四條第三項により大阪拘置所長宛に右期日を通知して同被告人を召喚したものと推認するのが相當である。尤も右によってもその手續のとられた日と第一回公判期日との間に刑事訴訟法第三百二十一條第一項が被告人の利益の爲に保障する三日の猶豫期間を存したか否かは知るべくもないのであるが、假にこの猶豫期間を存しなかった違法の點があったとしても、被告人において右猶豫期間の利益を抛棄できることは同條第二項の定めるところであり、原審第一回公判調書によれば、被告人梁川昌一が第一回公判期日に出頭した際特にこの點について異議を述べることもなく辯論し暗黙にこの利益を抛棄したことを認めることができるから、前記の違法はこの暗黙の抛棄によって違法でなくなったものと解すべきである。從って、原審第一回公判手續には被告人に對する召喚の手續について違法があるという論旨は理由がない。(殊に、本件においては、第一審終了の後、間もなく辯護人が選任せられ、昭和二十二年十一月十日の原審第一回公判期日は十月十三日辯護人三木今二に、同月二十七日辯護人田中昌太郎に通知せられたことは、辯護人も認めるとおりであって、右期日に關する被告人の利益については、辯護人の側において、十分考慮せられたものと推測すべきである。)

同第二點第三點について

犯罪の動機、被告人の人物、性格は、情状として、刑の量定の上に、重大な影響を及ぼすものであり、裁判所として、量刑に必要な限度において、詳しく取調べをしなければならぬことは所論のとおりである。しかし、これらの點に關し、いかなる限度に取調べをなすべきかということは、事実審裁判所にまかされているところである。辯護人は、原審は、このような重要な事実について、全然審理をしなかったと主張するけれども、原審第一回公判調書及び同公判において、證據調の行われた各證據書類を精査すれば、原審が、これら犯情に關する諸點についても、被告人の学歴、經歴、家族關係、家計の状況その他被告人は他の窃盗罪で起訴せられその保釋中であるにかかわらず、友達に誘われて、本件犯行をするに至った事情等犯罪の遠因、近因に關係する情状が相當に調べられていることがわかる。かつ、これら犯情に属する事柄は、たとえ、これについて、公判で詳しく被告人を訊問した場合でも、その訊問及供述を、もれなく調書に記載しなければならぬものでなく、その要旨を記載すれば足るのであるから、これらの點について、調書に詳細の記載がないからといって、直ちに、原審は十分に取調べをしなかったとはいえないのである。更に被告人の人物、性格については、裁判官が、公判で、直接被告人の風貌に接して、親しくその言語、動作等を觀察するによっても、また、取調の進行につれて判明する被告人の犯罪行爲それ自體、およびその行爲と前後するいろいろの經緯からでも、或程度の心證は得られるのであって、辯護人の主張するように、必ず、これらの點について、證人訊問をしなければならぬというものではない。要するに、原審は、本件量刑に必要なる限度において、犯罪の情状についても、取調べをしたものとみてさしつかえない。從ってこの點に關し原審に審理不盡の違法ありという論旨はこれを採用することはできないのである。

同第四點について

しかし、刑事訴訟法第三百五十條は裁判所は必要ある場合に辯論を再開することができるというのであって、被告人又は辯護人にその請求をすることを權利として認めたものではなく、再開するか否かは具體的な事情に應じて裁判所が自由な意見により決定して差支えないのであるから、原審が辯護人當別當隆治より辯論再開の申請があったにかゝわらず之を再開しなかったことは少しも違法ではない。論旨は理由がない。(その他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

以上のとおりであるから刑事訴訟法第四百四十六條により主文のように判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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